管理人エッセイ – 工場と鉄道

静岡県を走る岳南電車には、「夜景電車」というものがある。
夜景と聞いて想像するのは、丘の上から見下ろす大都会の街の光、海峡を照らすライトアップされた橋、闇夜に浮かび上がる空港、、、などである。
しかし、岳南電車から見える夜景は、そのどれにも当てはまらない。ここでいう夜景は「工場」の夜景だ。
岳南電車は、静岡県富士市の吉原駅と岳南江尾駅を結ぶ、わずか9.2kmのローカル線である。富士市と言えば、日本のトイレットペーパーの約50%を生産しているという「紙のまち」だ。そのため、岳南電車の沿線にはたくさんの製紙工場が集まっている。特に、岳南富士岡駅~比奈駅間は日本製紙 富士工場の敷地内を走るため、その車窓は正に「専用鉄道」の光景だ。
夜になると、工場内はナトリウム灯や眩しい蛍光灯で照らされ、煙突の上でゆっくり明滅する赤い航空障害灯の演出も加わり、いかにも幻想的な世界が広がることだろう。
そんな非日常の空間を車窓で楽しむことができるのが夜景電車だ。車両は、通常運行で使用している車両(8000形および9000形)だが、通常運行とは大きく異なる点が一つある。それは、車内の照明を消して走ること。もはや、遊園地のアトラクションそのものである。
私はまだ岳南電車自体に乗ったことがなく、いつか行ってみたいと思っているが、一つ悩みが生まれた。それは、「乗る」か「撮る」か。車窓を流れる工場夜景を見たい気もするし、夜の工場を行く電車を撮りたい気にもなる。

そんなことを考えていると、ふと、夜の宮浦駅の光景が頭のなかに浮かんだ。宮浦駅の東側には三井化学の工場が広がっており、夜になると眩い工場の照明が大牟田の夜空を照らしている。それとは対照的に、宮浦駅構内は暗く静かで、出発信号がぼんやり赤く灯り、入換標識がポツポツ光っているだけ。
もし、三井化学専用線に夜行便があったら ――― 重い貨車を牽いた45トン機が、東泉町2号踏切の警報灯が真っ赤に明滅する中を、ヤード照明灯で照らされたレールに沿ってゆっくりと宮浦へ帰ってくる ――― 三井化学の工場夜景をバックに、前照灯を煌々と灯した三池の機関車を写真に収めることができたら、どんな幻想的な写真が生まれるのだろう。

もし岳南電車に行く機会に恵まれたら、きっと私は、そこにマルーン色の機関車が走る姿を想像するに違いない。

管理人エッセイ – 工場と鉄道” に対して2件のコメントがあります。

  1. railway より:

     おはようございます。三池鉄道でも夜景列車をやると面白いでしょうね。岳南鉄道(電車)は、かつて貨物全盛期のころ、乗ったことがあります。
    <乗りある記>
     http://mgsclub.fan.coocan.jp/railway234.htm
     また、私は乗りそこなったのですが、分岐する引込み線に少しだけ入っては引き返し、入っては引き返すという臨時運転も行なわれました。
     三池も工夫次第で集客できる方法があると思うのですが・・・。

    1. EZ traveler(管理人) より:

      railwayさま、
      おはようございます、いつも有難う御座います。
      貴サイト、拝見しました。
      ED402と403(重連!?)が牽引する貨物、見たかったです。古い機関車の重連と言えば、三岐鉄道の貨物列車を見に行ったことがありますが、重量感があってカッコ良かったです。
      それと、交換駅のY字構造は面白いですね。当時はタブレットでしょうか?

      私も以前はよく18きっぷを使っていました。ムーンライト九州、ムーンライト八重垣、ムーンライト松山、海峡号、ミッドナイト、大垣夜行などなど、いろんな夜行に乗った思い出があります。夜行快速がたくさん走っていた時代が懐かしいです。

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